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ゴルフレッスンは欠かせない

前日にプレーしたゴルフの話で、スコアは43、40。 いいスコアだが、H君ならわざわざ報告するほどでもない。
「内容を聞いてよ、後半は寄せワンが3つもとれたんだから」その日の彼の体験を要約すると、こういうことになる。 ある企業の招待コンペに出たH君は、ハンディ11の50歳過ぎの熟年プレーヤーと一緒の組になった。
H君は例によってバーディーもとるが『寄せ寄せツー』もやるプレーぶり。 対して熟年氏は、飛ばないがグリーンの外から巧みに寄せてパーを拾っていく。
前半でH君は2打ほど負けていた。 昼休み。
H君は熟年氏にこういった。 「グリーン回りがお上手ですね」「今日は上出来です、10年ほど前はハンディ8までいきましたが、年のせいか最近はグリーンの外からのパー拾いが趣味になっちゃったんです」H君は思わずアプローチの打ち方を聞いた。
だが熟年氏は逆に質問してきた。 「Hさんは、アプローチのときに何を狙っていますか?」「もちろん次のパットを絶対外さないOKの距離につけようと思っています。

できればカップに放り込めるくらいの攻めるイメージで」熟年氏は一呼吸置いてこういった。 「Hさんは、プロのトーナメントをご覧になったことがありますか」何度か見に行ったことがあったが、それが何だろうとH君は思った。
「僕はトーナメント観戦が好きなんですが、プロは実によく寄せワンをとる」「ええ、プロは、どんなところからでも実にうまく寄せますよね」「僕も最初はそう思っていました。 でもあるとき気がついたんです、彼らが本当にうまいのは寄せではなく、そのあとのショートパットでした」エッ、とH君は驚いた。
「寄せた後のパットをさりげなく入れるからOKに寄ったように感じるんです、自分がパットする気持ちで見ていると、ほとんどの寄せの後のパットはシビレる距離が残っているんですよ」それまでは、熟年氏もH君と同じベタピン狙いだった。 カップのそばに球を止め、「お先に」ができる結果を求めていた。
名手はそうしているし、それがいいアプローチだと思っていた。 それが誤りだと気づいた。
ほとんどのアプローチの結果、残る次のパットの距離は日本一うまいレベルのプロのトーナメントでもOKの距離ではなかったのだ。 なかなかベタピンには寄せられないのがアプローチだとわかったのである。
ということは、寄せワンがとれるかどうかを決めるのはパット。 プロの寄せワン率が高いのはパットの技術が高いからで、ベタピンに寄るためではなかった。
「それから考え方を変えました、次のパットが入るチャンスが残る距離、僕の実力なら2メートル前後に寄れば上出来と思ったら、結果がガラリと変わりました」まずダブり・トップの打ち損ないが出なくなった。 そこそこ寄れば、という楽な気持ちで振れるからだろう、という。
いつもベタピンを狙うのは、プロでもできないことを望むこと。 結果との間にギャップができるからプレッシャーがかかってスイングのリズムが狂う。

それが打ち損ないの原因だということも感じられるようになってきた。 「もっとよくなったのは寄せの後のパット、よく入り始めたんです」技術は何も変わっていない。
はっきり変わったと感じられたのは、以前より落ち着いて打てる『気分』だった。 「たぶん、寄せよりも次のパットが勝負だとわかったからです、心の準備ができているから冷静になれる、だから落ち着いて打てるんでしょう」アプローチの結果に対する気分も変わった。
例えばカップまで1メートル半に寄ったとき。 『2メートル程度に寄ればよい』と予測していると、1メートル半は成功だ。
2メートルより近いぶんだけ勝負と踏んでいた次のパットが入る確率も高まるから、1メートル半の結果を前向きに受け入れられる。 だがベタピン狙いだと、1メートル半はベタピンとはほど遠いから「失敗した」という後ろ向きな気分になる。
次のパットも「外すかも・・・」と思い、ドキドキしながら後ろ向きで打ってしまう。 「僕の場合、ベタピンに寄せたいと思ったのは早くパーを決めたい、早く楽になりたいと思っていたからでした。
そんな技術もないのに寄せの1発だけに結果を求めたからうまく打てなかったし、本当の勝負のパットにも集中できなかった」自分の心中を丸ごとさらけ出されたようで、H君は赤面した。 その恥ずかしさをバネに、後半は次のパットをにらんでそこそこに狙っていったら寄せワン3つがとれたのだ。
「それでよ〜くわかったよ、自分がアプローチの次のパットから逃げていたことが、本当の意味での攻めというのは、一番苦しい最後のパットに、その前から向き合うことなんだね、考えてみたらバーディーパットも同じだった、そいつが外れてスリーパットしても気にするなと自分に言い聞かせていた、外れる怖さを無視すれば、入れることに集中できて、少しくらい多めにバーディーがとれるのは当然だったんだ、でもそれってゴルフじゃなかったよ、ゴルフは1ホールだけをプレーするものじゃないんだからね。 常に18ホールのスコアをまとめるという苦しさからも逃げてたんだよな、きっと、俺は攻撃型でも、守備型でもない、逃げ型のゴルファーだったんだ、強くて大きな外国人選手に正面からぶつかるサッカー選手を批評する資格はなかったよ」大叩きの原因は「パー狙い」にあり「ボギー狙い」でも70台が出せるワケF君は、コンピュータ関係の仕事をしている。
30代半ばの働き盛りで、会社での役職が上がった2年ほど前から仕事絡みのゴルフをすることが多くなった。 不況下でも、それなりに接待やコンペはある。
そうした付き合いゴルフにも自信満々で臨んでいた。 大学では体育会ゴルフ部にいたからだ。
有名プロを輩出している名門校だけに、大学に入ってからゴルフを始めたF君は試合のレギュラーにはなれなかった。 しかし腐らずに練習は4年間きちんと続け、相当な実力を身につけた。

働き始めてからはクラブを握る機会が極端に減ったが、それでも70台で回る実力は保っていた。 「学生時代にあれだけやったのだから、このくらいで回れて当然」そういう自負も持っていたのだ。
そのF君のゴルフが、ひどく乱れ始めたのである。 最初のうちはベスグロの常連で「やっぱり体育会育ちは違う」と評判が立った。
だが、しばらくすると80が切れなくなり、90台も出始めた。 F君にはショックなスコアだ。
ショットもパットも特に悪いわけではない。 でも、ちょっとしたことで7や8を叩いてしまう。
するとその後もボギーやダボが止まらなくなるのだ。 アベレージーゴルファーがスコアを崩す、典型的なパターンにはまり込んでしまったのである。

「スイングはコンピュータでいえばハードウェア、それは今でも悪くはないと思う、ソフトウェアはホールを読み、どう攻めるべきかという知識、それも学生時代よりは深まっているはずなのに・・・」仕事になぞらえて分析してみても、解決法は見つからなかった。 「とりあえず練習しよう、もしかしたら自分のスイングは、どこかが悪くなっているのかもしれない。
大叩きの原因はそれしか考えられない」F君は足しげく練習場に通い始めた。 毎日のように通ってくるF君に、練習場の初老のプロが声をかけるようになった。
「いいショットを打ちますね」最初は打席の後ろからそういわれた。

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